地代の値上げ交渉するには

1.適正地代の把握

 地代の値上げ交渉をするためには、まずは、適正な地代を把握する必要があります。
 →適正地代の把握は「地代の相場」に関するページをご確認ください。

2.相手方と交渉する

 現行の地代が適正地代と比べて低いことが分かったら、次に、借地人と交渉することとなります。
 では、どのように交渉すればよいでしょうか。いろいろな方法があります。ここでは地主が借地人と会って値上げ交渉に成功した実際の事例をご紹介します。

3.地代の値上げ交渉の成功事例のご紹介

 私は、東京都内S区の住宅街に一軒家を所有しています。敷地は借地です。6 年前に亡くなった父の代からここに住んでいます。地代は月額22,000 円、毎年4 月には1 年分を支払っていました。この地代が高いとか安いとかは、父の代から続けていたことなので特に意識したことはありませんでした。

 ある日、地主さんから地代の値上げをお願いできないか、と連絡がありました。もちろん値上げということですから、借地人としてはできれば避けたいところですが、とにかく会って話だけは聴くことにしました。

 後日、約束した喫茶店に行ってみると、父が亡くなったときに会ったきりの地主さんが待っていました。地主さんの用件は、地代を月額29,900円に値上げしたい、ということでした。ずいぶん前から地代の改定がされていなかったので、多少の値上げはやむを得ないかとも思っていましたが、約1.3 倍の月額29,900 円というのは少し高すぎるのではないかという気がしました。私が、少々渋った顔をしていると、「こちらをご覧下さい」と地主さんから「地代調査報告書」と題された8 枚ほどのレポートを渡されました。
 「不動産鑑定事務所に依頼して作ってもらったものです。かなり前から地代はそのままでしたので、値上げをお願いしようにも、どの程度が相場なのか私にもよく分からないので、こうやって専門家の方に調べてもらいました」



 地主さんも真剣に考えた上で値上げの話を持ち出したのが分かりました。「その報告書はお渡ししますので、よく読んで、値上げの件、検討してみて下さい」と地主さんに言われ、その場は別れました。

 持ち帰った報告書をぱらぱらとめくってみると、相続税路線価、固都税額、周辺地域の地代などが書かれていました。分からない用語などもあったので、報告書に書かれていた鑑定事務所に電話をして質問してみました。丁寧な答えが返ってきたので、ついでに、もし値上げを断った場合はどうなるかを訊ねてみると、可能性としては、地主さんが裁判所に地代の増額請求をする場合もありうるとのこと。

 裁判所が関わる手続きとなれば、こちらも弁護士を頼まねばならなくなるし、報告書をみる限り、地主さんのいう月額29,900 円という金額もそれなりの合理性があるように思えます。私の方で値上げするにしてももう少し安くして欲しいと裁判所で主張するには、もっと安い地代が妥当だとする報告書なり鑑定書をこちらで用意しなければならないでしょう。当然、そのためには費用もかかります。それに、裁判所が関わる手続きとなると、場合によっては地主さんとの関係が悪くなることも考えられます。不動産に詳しい友人にも相談してみましたが、手間と費用をかけて地主さんと争ってみても、父親の代から地代が据え置かれていたことからして報告書の地代には相応の根拠もあるだろうし、値上げは避けられないのではないかとの意見でした。いろいろと考えた挙げ句、結局、地主さんの申し出を受け入れることにしました。

 結果的には地主さんの言い分を全面的に受け入れることになりましたが、これまで安く借りられていたのが幸運だったとも言えるわけで、そう考えることにして納得することにしました。思えば、地主さんが最初からしっかりとした根拠を示して値上げ額を提示してきたのが正解だったのでしょう。



4.成功事例の解説

 本件のケースでは、借地人があっさりと地主の値上げを受け入れました。それは、調停や裁判などの手続になる手間をかけてみたところで、値上げを受け入れざるを得ないだろうと考えたからです。要は、それまでの地代がかなり安かったということです。
 
 調停や裁判などの手続、内容証明の効果的な利用の方法、交渉を有利に進めるための鑑定手法などの理解を深めたい方は、下記の書籍などが参考になります。
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5.地代値上げ交渉の心得

 地代交渉に関する大切な心得といえば、どういったものでしょうか。ここでは、地代交渉をすすめるにあたって必要となる心得について説明します。

地代についての正しい知識をもつこと

 1つ目のポイントは、やはり、地代についての正しい知識をもつことです。現在の地代は安すぎないだろうか、適正地代はどのように調査するのだろうか、どのような交渉方法があるのだろうか、交渉がまとまったことを文章に残すのはどのようにすればよいか、交渉が決裂した場合、その後、どのような手続きになるのだろうか等々。先代から受け継いだ大切な資産を維持、運用していくためにも、地代についての正しい知識は必要です。
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あきらめないこと

 2つ目のポイントは、地代値上げについて、困難な交渉が予想されたとしても決してあきらめないことです。ぜひ粘り強く交渉する気持ちをもってください。単純なことのようですが、これがむずかしいようです。武士などが腰に刀を差していないことをまる腰といいます。先に説明したとおり、借地借家法によって現在の地主は、契約更新時の主張が大きく制限されています。地代値上げの交渉をしようにも、まる腰で相手に立ち向かうようなものです。
 昔の大地主は、目に見えない権威みたいなものが代々にわたり受け継がれていました。借地人らは地主に対して一種の畏敬の念をもち、それを背景として地代値上げの交渉もある程度うまくいった時代もあったようです。現在においては、このような場合は稀でしょう。むしろ地主から土地を賃貸借している立場を生かして、借地権という法的権利を示して声高に物をいう借地人もいます。もちろん、このような一部の不良借地人もいれば、逆もしかりではあります。長い賃貸借関係ですから、お互いに一定の敬意をもった良好な関係でいることが理想でしょう。しかし、うまくいかないのが現実です。とはいえ、うまくいかないからといって、あきらめて、そのまま放置しておくようなことだと何ひとつ解決には至りません。

地代の交渉記録を残すこと

 地代が相場より安いまま、地主のほうが面倒くさがったり、どうせ何をいっても無駄だからとか、父の代から借地人との関係が悪化したまま放置しているようなことはないでしょうか。それは自ら好んで不利益に甘んじるようなものです。賃貸借契約の更新時はもち
ろんのこと、更新時にかかわらず積極的に地代の値上げを申し入れるべきです。そして、せめて、その地代値上げの交渉記録だけでも文章として残しておきましょう。口頭だと後日言った言わないで争いが生じることもあり得ます。文章を残しておけば、後日、地主に有利に事が運ぶこともあるでしょう。

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