物件の所在 | 東京都世田谷区 |
用途地域 | 近隣商業地域 建ペイ率80% 容積率300% |
道 路 | 6m区道 |
地 積 | 108坪 |
現在の地代 | 69,000円(坪640円)×12ヶ月=828,000円(公租公課に対して2.37倍) |
公租公課 | 350,000円(年額固定資産税・都市計画税) |
A.差額配分法による試算地代
基礎価格と期待利回りから求めた積算地代を138,000円/月額、周辺の事例から求めた比較地代を147,000円/月額(※本件では珍しく多数の新規賃貸事例を得ることができた)を算出して、両試算地代を適正な調整を行い、正常実質賃料を140,000円/月と査定した。これと現行賃料との差額を、本案件の実情を考慮して、地代鑑定を行った。
月額104,500 円(970円/坪)
B.利回り法による試算地代
基礎価格×継続賃料利回り+公租公課で求めた。
最終合意時点の実績利回りの査定結果は、0.5%
地代とは、結局、元本果実の関係を基礎として成立する。現在の金利水準は歴史的に見て異常に低い水準であるが、本件の実績利回り水準は、それよりも遥か下回る水準である。そのまま継続賃料利回りとして採用するのは公平ではない。地主とすると、これを下限として、借地人との交渉に臨み、妥協点を見つける。一方、借地人側にしてみれば、新規賃料を求める際の期待利回りを上限として、なるべく低い水準で妥協点を見つける。新規の期待利回りは●%と査定していることから、本件の継続賃料利回りを、賃料の遅行性・粘着性を考慮にいれて、下限値と上限値の間である●%[(●%+●%)÷2=●%] と査定した。
基礎価格に継続利回りを乗じて公租公課を加算して鑑定を行った。
94,200 円(870円/坪)
C.スライド法による試算地代
従前の月額地代に適切な変動率を乗じて鑑定を行った。
63,400 円(590円/坪)
D.賃貸事例比較法による試算地代
近隣の賃貸借の地代の改定事例があり、これを地域要因、個別的要因、契約内容の比較を行って鑑定を行った。
116,000 円(1,070円/坪)
E.公租公課倍率法
112,000 円(1,040円/坪)
・差額配分法は、賃貸借当事者間が賃料改定を通じて賃料差額の縮小に努める傾向があるという観点から妥当性を有する試算賃料である。
・利回り法は、現実には元本と果実の相関関係は希薄であり、従前合意の実績利回りをそのまま採用することの信頼性は劣るが、従前合意の実績利回りをベースとして適正補正した継続賃料利回りを査定したので妥当性が認められる。
・スライド法は、マクロ経済の指標にやや偏りがちで、地域の地代改定の水準等が反映し難いという特徴があり、経済情勢だけ取り上げて、賃料を決定するのに限界がある。従って、当該手法による試算賃料の妥当性は劣る。
・賃貸事例比較法は、実証的で説得力を有する。
・公租公課倍率法は、対象地に課税される固定資産税・都市計画税額に、一定倍率を乗じた額を試算賃料とする方法である。算出方法も簡便でわかりやすい。しかし、地域固有の事情、契約の個別性といったことが反映されない。比較広範囲な地域における地代の水準を把握する上で有用である。他の手法で求められた試算賃料が概ね妥当かどうかを判定する参考資料となる。
本件の場合、差額配分法による賃料、比準賃料、利回り法による賃料の妥当性が高く、スライド法による賃料は妥当性が劣る。また、公租公課倍率法による試算賃料は、地域における地代の水準を把握するという点において有用であるが、対象不動産の個別性が反映されにくいという側面を有している。継続賃貸事例に基づく比準賃料は、●●区内の地代水準に基づく公租公課倍率法による試算賃料と概ね整合性を有していることが証明されている。
以上の検討により、本件評価においては、差額配分法による賃料(25)及び比準賃料(25)、利回り法による賃料(25)を重視し、公租公課倍率法による賃料(15)を参酌し、及びスライド法による賃料(10)は参考にどどめ、鑑定評価額を決定した。(括弧内はウエイト付け、合計100)
鑑定評価額 (月額支払賃料) 102,000円 (950円/坪)
・上記は、原告を地主、被告を借地人とする裁判例です。
・それぞれ算定された試算地代につき、適正賃料額と実際支払賃料額の乖離が甚だしいことを考慮して、差額配分法:利回り法:スライド法:賃貸事例比較法、公租公課倍率法を25:25:25:15:10(合計100)の比重を与えて算定しました。
・この事例では、適正地代は102,000円、公租公課実額の3.50倍でした。周辺の地代相場による公租公課倍率の平均値は3.86倍でした。公租公課倍率は、借地の面積が広いか小さいか、小規模宅地に適用される公租公課の軽減措置が適用の有無、公租公課実額が周辺の借地より高いか低いかを考慮して、裁判所は、公租公課倍率の差は問題とならないと判定しました。
・対象地上には、その敷地の目一杯に共同住宅が建築され、賃貸されている。
・満室賃料等の収入は、年額21,595,000円。
・年額費用は、次の通り。
①減価償却費 5,980,000円
(内訳)
本体 119,700,000円の30年間の定額法による額 3,990,000円
設備 29,900,000円の15年間の定額法による額 1,990,000円
②修繕費
総収入の5%の1,080,000円
③維持管理費
年額賃料19,668,000円の3%の590,000円
④建物の公租公課
630,000円
⑤損害保険料
建物の残存価格37,500,000円の1%の38,000円
費用①~⑤の合計 8,318,000円
・純収益の額
差し引きすると、13,277,000円
地代とは、結局、この建物賃貸による収益を、地主と借地人に分配した場合に、地主に帰属する分である。この分配は、双方の協議によりすることが望ましいが、それができない場合は、公平に分配する以外にはない。
地主にしてみれば、この収益は、利用価値のある土地を提供したことにより挙げられるのであるから、その大部分を地主に分配すべきというであろう。しかし、収益は、土地と建物双方が揃い、さらに建物賃貸という営業が加わって初めて挙げられる。したがって、公平に考えれば、土地への資本投下、建物への資本投下、そして建物賃貸という営業それぞれに収益を分配するべきで、土地の投下資本にのみ厚く分配するのは公平ではない。
上記の考え方に基づき、総額13,277,000円の純収益を地主と借地人に分配し、年間地代は、年額5,930,000円と判定する。ちなみに土地の公租公課の額は年間900,000円であるから、この地代の額は、その6.5倍に相当する。
・本件は、鑑定評価基準に明示されていない手法「地代残余法」である。
・判例では、新規地代か継続地代の区別はなされていない。
・継続地代に適用する場合は、契約の内容、締結の経緯等の契約の個別性が反映できないなど手法
適用の疑問が若干ある。
・新規地代の査定においては、説得力がある。
・鑑定評価基準に沿っていないので、適用する場合には注意が必要である。
参考:判例(平成12年7月18日東京高裁第19民事部判決)
最後に、交渉に役立つ鑑定手法を説明した書籍をご案内させていただきます。
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